引越した場合、原則として住民票を異動しなければなりません。なかには、住民票を移さない正当な理由があるのかどうか気になる方もいらっしゃるでしょう。正当な理由として認められれば、住民票を異動させなくても問題ありません。ただし、正当な理由があったとしても、住民票を移さなければデメリットが生じる可能性がある点に留意しましょう。この記事では、住民票の基礎知識や、正当な理由として認められる例、移さないことによるデメリットについて解説します。
目次
住民票を移さない正当な理由がない限り、移す義務がある
住民基本台帳法により引越しをした場合、正当な理由がない限り異動の届け出をすることが義務付けられています。住民票は、国民健康保険や国民年金、児童手当、選挙人名簿への登録など各種行政サービスの基礎となっているためです。ここでは、住民票の基礎知識について確認しましょう。
そもそも住民票とは?
住民票(住民基本台帳)とは、市町村における住民の現住所を公的にまとめた台帳で、以下の情報が記載されています。
・氏名
・生年月日
・性別
・住所
・世帯主氏名・続柄
・戸籍の表示(本籍及び筆頭者氏名)
・マイナンバーカード
・住民票コード
・選挙人名簿の登録に関する事項
・国民健康保険
・後期高齢者医療
・介護保険
・国民年金の被保険者の資格に関する事項
・児童手当の受給資格に関する事項
住民票は電子データに保存されている情報そのものを指し、そのデータから証明として交付するものが「住民票の写し」です。従って、市役所・区役所で取得する住民票は「住民票の写し」となります。住民票は、本人が転出したり、亡くなったりすると消除されます。
住民票の種類
住民票には以下の5種類があります。
・住民票の写し
住民票の原本である電子データの内容を専門用紙に印刷して書面にしたものです。原本の内容を複製しているという意味で「写し」と言います。
・除票
引越ししたり、亡くなったりして除かれた住民票のことです。
・住民票記載事項証明書
住民票の写しの内容の中から、申請者の方が必要とする項目のみを証明するものです(住所、氏名は必須)。
・広域住民票
住民票がある住所地以外の市区町村が発行を行う「住民票の写し」です。本籍地を記載できないため、運転免許証の更新や年金、裁判関係などの手続きには利用できません。
・不在住証明書
証明する日の時点で「証明書の住所に住民票がない」ことを証明するものです。
住民票が必要な場面
以下の場面で住民票の写しが求められます。
・児童扶養手当や住居手当の認定請求をするとき
・現住所等を確認するために求められます。
・不動産の賃貸契約を締結するとき
・貸主が借主の引越し前の住所を確認するために求められます。
・運転免許証を新規取得するとき
本籍および現住所を確認するため、戸籍情報を記載した住民票の写しが求められます。また、住所変更の際に、新住所を確認するため住民票の写しが必要です。
そのほか、以下の場面で必要となります。
通帳を作る際に本人確認書類を求められたとき
携帯電話を契約するとき
住宅ローン控除制度を受けるとき
企業に就職したとき
住民票の取り方
住民票の写しは、窓口・郵送・コンビニ交付などの方法で取得可能です。
・窓口
本人確認書類を提示して窓口で取得する方法です。
・郵送
必要事項を記載した便せんまたは「住民票の請求書」をプリントアウトしたものに以下を同封・返信用封筒(切手を貼り、請求者の住所・氏名を記入したもの)・手数料(定額小為替または現金書留)・請求者の本人確認資料(本人確認書類のコピー)を同封して郵送にて請求する方法です。
・コンビニ交付
マイナンバーカードを利用して、コンビニエンスストアに設置されているマルチコピー機から取得する方法です。
住民票を移さない正当な理由として認められた判例
1年以上継続して生活の本拠が移る場合は届出が必要です。従って、以下の場合は住民票を移さない正当な理由になります。
・新住所に住む期間が1年以下
・生活の拠点が元々の住所
ここでは、正当な理由に該当する例について確認しましょう。
生活の本拠とは?
生活の本拠は、その者の生活に最も関係の深い一般生活、全生活の中心とされています。過去の判例では、住所としての生活の本拠は、住居や職業、生計を一にする配偶者や親族の存否、資産の所在など客観的な事実に基づいて判断するとしています。正当な理由として認められるかどうかは、自治体によるため不安な場合は相談してみましょう。
学生の場合
新住所に住む期間が1年以下という条件に基づき、新住所に住む期間が1年以下で、その後実家に戻る予定であれば住民票は移さなくて良いでしょう。生活の拠点が元々の住所にあるという条件は、大学生活の4年間、住民票を実家のままにしておいても良いと解釈することもできます。進学による新しい家は「通学するための場所」であり、実家に多くの私物が置いてあったり、頻繁に戻ったりしている状態では、「生活の本拠が移っている」とは言い切れません。従って、この状態が1年以上続いても住民票を移さなくても良いと判断できます。
単身赴任の場合
学生の場合と同様に、1年以下の単身赴任であれば移動する必要はありません。1年以上の場合であっても、定期的に元の家に戻っていれば住民票を移さない正当な理由として認められます。仕事のための一時的な移動であって、生活の拠点は元の家であると解釈できるためです。学生・単身赴任を問わず、重要なのは生活の拠点となります。判断に迷う場合は自治体に相談しましょう。役所や担当者によって考え方が異なる場合があるため、担当者名は必ず控えておき、「〇〇役所の〇〇さんに問題ないと言われた」と主張できるようにしておくと安心です。
配偶者からのDVやストーカー行為、児童虐待の被害を受けている場合
配偶者からのDVやストーカー行為、児童虐待およびこれらに準ずる行為の被害により、加害者に居場所を知られたくないという場合、住民票を移さない正当な理由として認められます。この場合、住民票を異動させてもても、市区町村へ住民基本台帳事務でのDV等支援措置を申し出れば、加害者から住民票の閲覧や交付の請求があっても拒否の対応ができます。詳しくは、住民票のある市区町村または本籍地の市区町村にお問い合わせください。
住民票を移さない正当な理由がなく、移さなかった場合の罰則
正当な理由がなく移さなかった場合、5万円以下の罰金が科せられる可能性があります。自治体の判断によるため、口頭で注意されるだけで済む場合もあれば、短期間遅れただけでも厳しく罰せられる場合もあります。しかし、税金を安くするため、選挙のためなど悪質な意図により移さなかったと判断される場合は厳しく罰せられることに留意しなければなりません。また、引越した日を偽った場合、「公正証書原本不実記載罪」という犯罪行為に該当し、「5年以下の懲役又は50万円以下の罰金」となり、前科がつくため虚偽の申告はしないようにしましょう。
住民票を移さない正当な理由がなく、移さない場合のデメリット
ここでは、正当な理由なく住民票を移さない場合のデメリットについて解説します。なお、正当な理由があったとしても、移さないことでデメリットとなる場合も少なくありません。引越し先で過ごす期間やデメリットなどをよく検討したうえで移すか移さないか決めましょう。
自動車関係の手続きができない
住民票を移していない場合、旧住所の自治体で免許更新を行わなければなりません。遠方に引越した場合、更新時に旧住所の自治体まで移動しなければならないため、時間や労力、交通費などが大きな負担となるでしょう。免許更新の予定がある人は、早めに手続きを済ませておく必要があります。ただし、優良ドライバーであれば、「経由申請」によってほかの都道府県公安委員会からの申請手続きが可能です。
証明書類を発行できない
印鑑登録証明書など、各種証明書類は住民票のある自治体でなければ発行できません。新住所で証明書類を発行できないと、何かと不便が生じます。最近では、コンビニ交付サービスで発行できる証明書類もありますが、罰則も考慮して早めに手続きを済ませておくことを推奨します。
新住所で選挙の投票ができない
選挙権が行使できるのは住民票がある自治体のみです。移動していない場合、投票や立候補をする際に旧住所に移動して行わなければなりません。選挙権の行使は任意とはいえ、社会情勢の変化に伴い投票したくなることも考え、引越しが完了した時点で移しておくようにしましょう。
確定申告ができない
確定申告は、原則として、住民票がある住所の管轄内の税務署で行うことが義務付けられています。Web手続き「e-tax」が利用できる人は問題ありませんが、紙で申告している人は注意が必要です。また、例外として、住民票と居住地の住所が異なる場合、「所得税・消費税の納税地の変更に関する届出書」を提出すれば認められることもあります。
勤務先に迷惑をかける可能性がある
住民票と居住地の住所が異なる場合、住宅手当や通勤手当の申請が認められない可能性があります。旧住所の自治体に住民税を納税し続けている場合は税金未納者として扱われる恐れや、旧住所のまま通勤手当を多く受け取っていた場合は横領に該当する点にも留意しなければなりません。住民票と新住所の住所が異なることで手続きが煩雑になり、勤務先に迷惑をかける可能性があるため、速やかに移しましょう。
公的な郵便物が届かなくなる
役所からの重要な通知など、公的な郵便物が届かなくなります。そのほか、クレジットカードのように「本人限定受取郵便」に指定されている郵便物が受け取れなくなる可能性があります。本人確認書類が旧住所のままでは、本人確認ができないためです。このように、住民票と新住所が一致しないと何かと不便なことが生じる傾向にあります。
新しい自治体で受けられないサービスが出てくる
各自治体が提供している行政サービスの対象は、その自治体に居住している人のみです。異動手続きをしていない場合、公共サービスや福祉サービスなど一部の行政サービスの利用が制限される可能性があります。
住民票を移さない正当な理由がない場合は異動手続きをしよう
特別な理由がない限り、住民票は期限内に異動手続きをしましょう。必要なものも少なく、短時間でできるため、引越しが完了次第すぐに済ませてしまうことをおすすめします。ここでは、手続きの概要についてご紹介します。
転出届
同一市区町村以外に引越しをするときに行う手続きに必要な書類です。住民票の二重登録を避けるために、転出届によって転出地市町村の住民票を転出予定年月日に消除します。転出届の手続きをすることで転出証明書が発行されます。この証明書がなければ転入届の手続きはできないため注意して下さい。転出届は郵便対応もしているため、役所に行けない場合は利用すると良いでしょう。転出届を提出した後に引越す予定が無くなった時は、転出届を提出した機関で転出届の取り消しを行ってください。
転入届
引越しで新しい住所に住民票を移すための手続きに必要な書類です。郵送やオンラインには対応していません。海外からの長期滞在を終えて日本に戻ってくる場合も、転入届を提出する必要があります。海外からの転入の場合は、本人確認書類に加え、入国日がわかるパスポートや戸籍事項証明書または戸籍謄本、戸籍の附票の写しが必要です。転入先に本籍がある場合は戸籍関係の書類は必要ありません。
転居届

同じ市区町村内で引越しする時、住民票を変更するために必要な書類です。郵送やオンラインには対応していません。引越し前に転居届を出すことはできないため、引越し後に手続きをする必要があります。なかには引越し日を偽って引越し前に手続きしようとする人がいますが、トラブルにならないためにも引越しをしてから手続きしましょう。
住民票の異動手続きは何をすべき?
他の市区町村に転出・転入する場合は、引越し前の市区町村で転出前に「転出届」を提出して「転出証明書」を取得します。引越し後、引越し先の市区町村で「転出証明書」を添えて「転入届」を提出します。同一の市区町村内で転居する場合は、住民票のある市区町村で「転居届」を提出します。なお、「転出届」はマイナポータルを通じてオンラインでの提出が可能です。
手続きを行う場所
前述のように、手続きを行う場所は転居先が同一市区町村内か否かによって異なります。いずれも地域の自治体が管轄する役所で手続きをすることには変わりありません。転居先が同一市区町村内であれば、現在住んでいる自治体の役所で完結できます。転居先が市区町村外の場合は、転居前の地域の役所と転居後の地域の役所で手続きしなければなりません。市区町村外に引越す場合は、2か所で手続きする必要があるため注意しましょう。
手続きを行うタイミング
転居の手続きは転入した日または転居した日から14日以内に行わなければなりません。2週間と比較的長い期間のため、後回しにして移し忘れてしまう人も多いようです。従って、住民票の異動は引越してすぐにやるものと考えておきましょう。可能であれば、引越し後の翌日に手続きに行くと良いでしょう。
手続きに必要なもの
手続きに必要なものは以下のとおりです。
本人確認書類(運転免許証、マイナンバーカード、パスポート等)
印鑑
印鑑登録証明書(登録者のみ)
該当者のみ必要なものや、あると便利なものは以下のとおりです。
国民健康保険証
高齢者医療受給者証
乳幼児医療証
基本的に、本人確認書類と印鑑があれば手続きできます。転出手続きや転入手続きはマイナンバーカードでも可能です。ただし、暗証番号が必要になる点と、一部施設ではマイナンバーカードによる手続きに対応していない場合がある点には注意しましょう。
家族の分もまとめて出せる
同じ世帯で15歳以上の人であれば、誰が手続きをしても問題ありません。世帯全員で引越す場合は、世帯の誰かが代表して手続きに行っても良いでしょう。本人確認書類は窓口に行く本人の分だけで済みますが、マイナンバーカードは家族全員分持っていく必要があります。同一世帯で届出を提出している場合、同棲カップルも委任状不要で手続き可能です。
代理人でも手続きできる
住民票の異動は代理人でも手続き可能です。同一世帯以外の家族や友人に手続きしてもらう場合は、委任状が必要となります。委任状は各市区町村のホームページからフォーマットをダウンロードできます。記入例を参考に白い紙に必要事項を記載する方法でも問題ありません。
代理人が手続きをする際に必要なものは以下のとおりです。
本人確認書類
委任状
代理人の印鑑
転出届・転入届・転居届を提出する人の印鑑
転出届・転入届・転居届を提出する人のマイナンバーカード
転出届・転入届・転居届を提出する人の国民健康保険証・乳児医療小・後期高齢者医療保険被保険者証・介護保険証・年金手帳など
転出届・転入届では、別々の委任状を用意しなければならない点に注意しましょう。また、転入届を手続きする時は、上記のものに加えて転出証明書も必ず持参してください。
住民票を移さない正当な理由がなく、移し忘れたときの対応
速やかに役所に行って移し忘れていた旨を伝えて手続きを行いましょう。前述のとおり、役所によって対応が異なり、そのまま手続きをしてくれる場合もあれば、罰金を科せられる場合もあります。手続きをしないままでいると、後で発覚した場合に故意に移さなかったと判断されるおそれがあるため、気が付いた時点で手続きをするようにしてください。
まとめ
引越しに伴い、住所が変わったら住民票の異動手続きを行わなければなりません。法律で定められているため、手続きを行わなかった場合は罰金が科せられる可能性があります。住民票を移さないことで、重要な書類が届かなかったり、行政サービスを受けられなかったりするなど、多くのデメリットがあります。引越しから14日以内が手続きの期限ですが、忘れないためにも引越した時点で速やかに手続きを済ませておきましょう。